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”I Am Not I” 

純粋詩を確立した詩人フアン・ラモン・ヒメネス・マンテコンは、1881年スペイン南部アンダルシア地方で生まれました。彼の代表作に「プラテーロとわたし」があります。飾ることなくシンプルで透明感のある詩を書き1956年には、「叙情的作品の純粋な芸術性とその高揚された精神」によりノーベル文学賞を受賞しています。

Ⅰam not I .

私は私ではない。
私は彼だ。
彼は私の傍を通るが見ることは出来ない。
時々、彼を見ようと思うこともある、
時々、彼を忘れることもある。
私が話すとき、彼は静かに、黙っている、
私が憎むとき、彼は優しく、許す、
私がいない所を彼は歩む、
私が死んでも彼は立ち続けるだろう。

この詩はヒメネス詩集の中の”I am not I”という詩です。この詩の中で語られる「彼」とは、人によって様々な解釈があると思います。宇宙、大いなる存在、本質的な自分、高次な自分、フォースなどでしょうか。この詩には、ヒメネスが目に見える三次元的なものではなく、目に見えない存在と共に生きていたことが表現されていると思います。私たちの本当の姿とは流動的なものであり、それは波動や意識など目に見えないもので出来ているという宇宙の真理を感じました。何度も読み返すうちに詩の持つ純粋さやその奥に秘めたパワフルさを感じ、表現はシンプルですが読み手のハートにダイレクトに響く、とても素敵な詩でした。

 

ツァラトゥストラかく語りき(上)(下)

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの代表作「ツァラトゥストラかく語りき(新潮文庫)」は、四部構成で1883年から1885年にかけて発表されました。当時はほとんど売れず反響も少なかったようですが、現在では多くの人に読まれ、ニーチェ哲学の面白さをよく理解できる本だと思います。この本は、賢者ツァラトゥストラが、自分の知識を人々に伝えながら、その過程においてニーチェ哲学を盛り込んだ作品です。ニーチェはこの本で、神の死、超人、そして永劫回帰の思想を伝えています。ニーチェ哲学以前、古代哲学者達は、絶対的な神を信じていたからこそ、これは善でこれは悪と語っていたが、ニーチェは「神が死んだ」という言葉と共に、これまでの絶対的な神を否定し、ニヒリズムに陥ってしまう人間の脆弱性を認め、それでもなお絶対肯定を説いたところに共鳴でき哲学の楽しさや面白さを感じました。この本の中でニヒリズムの克服として牧人が蛇を噛み切ったエピソードがあります。ニーチェ哲学の中にある、永劫回帰の考え方を受け入れることで、ニーチェ自身が自分の人生においても実践した絶対肯定を手に入れることができます。

この本を読み終えて、ふとある話しを思い出しました。心理学の世界において精神的な病が治癒していく過程を見ていくと、治療当初は自己否定や他人に対しの責任転嫁をしているが、徐々に引き受け、自己責任という現象が起こるそうです。自分の周りで起こる現象は、すべて自分の選択の結果であり、それは意識的または無意識的に行われています。そこに気付くことで引き受けが起こり、腑に落ちた時に初めて意識的に物事を選択出来るようになります。それが100%自己責任でありニーチェ哲学の真髄である絶対肯定です。今までは起こる出来事に対し、反射的に反応するしかなかったが、それらを受け入れた時に意識的に選択し、自ら反応を選び取ることで治癒していくそうです。本の内容の中にある絶対肯定の生き方と以前聞いた心理学の話しとが偶然にも一致し、とても意味のあることのように思えました。

 

九谷焼(くたにやき)

色絵陶磁器の最高峰である九谷焼は、1655年に大聖寺藩(藩士・後藤才次郎)が石川県南部の南加賀にて陶石をもとに開窯しました。鉄分を多く含む陶石を使っている為、その性質上、真白な色の焼物にはならず見栄えを良くするために絵を描いたと伝えられています。九谷焼は彩色することで価値を見出したのですが、半世紀ほどで廃窯となります。その約100年後、加賀藩の奨励により、九谷焼は再興され前田家の豪放華麗な文化の中で技術が磨き上げられました。そして、明治時代に入り1873年のウィーン万博をきっかけに九谷庄三(くたに・しょうざ)の彩色金襴手が、有名となり「ジャパンクタニ」として九谷焼の名が世界に一気に広まりました。

そんな九谷焼を見に九谷陶芸村に足を運びました。九谷五彩(赤・黄・緑・紫・紺青)を使う古九谷。青・黄・紫・紺青の四色を煌びやかに使う吉田屋風。久谷赤絵と呼ばれ赤色が目立つのが特徴的な飯田屋風。他にも永楽風や庄三風などあります。最近では、ロディなどのキャラクターとのコラボレーション商品も流通しています。
一つ一つ手に取りじっくり見ていくと、色彩の細かさや造形の美しさなどから作り手の思いに触れることができた気がしました。私は吉田屋風の黄、緑に惹かれコーヒーカップを買いました。最近は、無駄を省きシンプルなデザインが求められることが多いですが、九谷焼の華やかさの中に宿る優雅な日本文化を垣間見ることができました。来月完成する建物の中でこの九谷焼の煌びやかさが、どのように見えるのかとても楽しみです。

 

明り

明りは心を動かす大切なエッセンスの一つです。特に夜のダイニングに求められる癒しや落ち着き、美しさなどに影響します。LDKの空間構成の条件を満たせば、ダイニングテーブルの上に一つだけペンダントライトを設けます。そうすると自然と陰影が生まれ明りが際立ち、ダイニングに人が集まりやすくなります。またダイニングテーブルの上の料理に明りが集中していることで美味しくも見えます。その為。照明については施主様のご要望がなければ、下を照らすシンプルなペンダントライトを提案しています。

そしてもう一つ大切なのは目に入る景色です。景色をよりよく見せるために、照明の配置を工夫し緑を演出することを心掛けています。また障子を閉めた時には、その障子を大きな照明器具と見立てています。和紙は明りをやわらげ、和の趣を感じさせてくれます。このように私たちは、自然光と同じぐらい照明の明りによって心が癒され落ち着きます。その一瞬をつくり出すことが、設計の楽しみの一つです。

 

朝の光

今住宅に求められているのは、潜在的な居心地の良さだと感じています。それは私たちが住む物質界において相対的な幸福感ではなく、絶対的な幸福感に満たされることです。潜在的な居心地の良さを満たす為には、様々なエッセンスを空間に散りばめ、心を動かすことが大切だと考えています。例えばダイニングにおいて、光や景色を使うことです。人は無意識に光の方向に目を向けてしまうという習性があります。トップライトやハイサイドライトのような上からの光によって、自然と目線が上に向き見上げてしまうという行為を引き出します。この上を向くという行為は、前向きな気持ちをつくってくれます。このことはヨガのポーズにも見てとれます。力強い戦士のポーズは顔を上に上げることで、前向きな気持ちになることから、朝に行うと良いと言われています。私たちは毎日のようにパソコンやスマホを見る為下を向くことが多く、日常あまり見上げるという行為をしなくなっています。

朝のダイニングで行われるこの見上げるという些細な行為が、その日一日の気分を決定する大切なエッセンスとなります。そしてもう一つ見上げるという行為と同じぐらい大切なことは、朝一番、目に映る景色です。朝の清々しい光に照らされる緑を眺め、風を感じながらの朝食は、更に気持ちを高めてくれます。景色の切り取り方には、開口部に様々な工夫を施し、それによって生まれる陰影や内外の繋がりなどがあります。また、ダイニングとキッチン、リビングなどの距離感、気積なども検討します。それらに関しては機会があればいずれ書きたいと思います。

 

会話の密度

住宅設計のポイントのひとつにLDKの配置があります。敷地に余裕があり方位などの条件がいくつか合えば、リビング・ダイニングをズラす配置をしたり、あるいは中庭でリビングとダイニングを分けたりします。一般的にLDKは広い一室の空間が多いですが、会話の密度が同じになってしまうと感じるので、一室の場合でも何かしらの工夫を施す必要があると思っています。会話の密度とは、例えば茶室のような小さな部屋とホールのような大空間では、なされる会話の内容が同じテーマであっても違ってきます。他にも日本料亭の畳の部屋でなされる会話と、ホテルのラウンジでなされる会話とでは違ってきます。そのことを私たちは生活の中で経験上知っていて、求める会話により無意識に空間を変えています。それだけ空間、建築は心に影響を及ぼし、会話の密度に影響を与えていることが分かります。

日常を過ごす住宅においては、リビング・ダイニングでなされる会話の密度は更に細分化され、朝、昼、夜の時間帯によって変わってきます。特に一日の始まりである朝のダイニングでの過ごし方は、その日一日の気分を決めると考えています。また夜のリビングでの過ごし方が、明日への活力を生むと考えています。このような日常の中にある人の無意識の行動を観察し、潜在意識下にある欲求を空間に具現化していくことが大切だと考えています。

次回はダイニングについて更に深堀りしたいと思います。

 

ボイジャー1号、2号

「数学は論理の音楽であり、音楽は情緒の数学である」という素敵な言葉が、ある知人から紹介して頂いた、NHKラジオ深夜便から聞こえてきました。私はその言葉に一瞬にして引込まれてしまいました。その声の主は理学博士の佐治晴夫さんです。佐治さんは、1/fゆらぎを扇風機に応用したり、家庭用ビデオVHSの3倍モードなど開発した一人です。また、宇宙探索機ボイジャーに搭載したゴールデンレコードの中に、数学的規則性を持つバッハのプレリュードとC52の音の収録を提案した人物としても知られています。
ゴールデンレコードには、115枚の画像と波、風、雷、鳥や鯨などの動物の鳴き声や多くの自然音、様々な文化や時代の音楽、6000年前にシュメールで話されていたアッカド語から始まり最後には中国の呉語が収録された55種類の言語のあいさつ、ジミー・カーター大統領と国際連合事務総長クルト・ヴァルトハイムからのメッセージなども加えらています。
ボイジャーは、太陽系の惑星および太陽系外の探査と、地球外知的生命体へのコンタクトをミッションとし1977年に打上げられました。木星の大赤斑や土星の輪の構造、海王星や冥王星の写真を残しています。そして、1990年約60億km離れた場所から振返り、撮影した太陽系の惑星「家族写真」を撮り終えた34分後、ボイジャーのカメラの電源は切られ、この画像が最後となりました。これまで一度も振り返ることなく外の世界に目を向けて進み続けていましたが、この瞬間一度だけ振り返っています。その後は二度と振り返ることなく地球、人類の希望、未来を一心に背負い今も勇敢に深宇宙を進み続けています。
私たちが出来ない宇宙探索を私たちの代わりに目や手足となって宇宙を探索し続けていることを思うと、尊敬と感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。
ボイジャーは今でもNASAの人たちから、我が子のように愛され続けています。いつか地球外知的生命体が、ゴールデンレコードから発せられる地球からのメッセージを受け取り、コンタクトを取ってくることを楽しみに待っています。

 

アルケミスト ~夢を旅した少年~ を読んで

1988年に出版されたブラジルの小説家パウロ・コエーリョの代表作「アルケミスト -夢を旅した少年」は、これまで6500万部以上を売り上げ世界的ベストセラーになっています。また、67か国語で翻訳され現代の作家としてギネス世界記録に名を刻んでいます。
本の裏表紙には次のように書かれています。羊飼いの少年サンチャゴが、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向け旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を超えて少年はピラミットを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」少年は錬金術師の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んでいく。
2020年12月22日、木星と土星が重なるグレート・コンジャクションが起こり約240年続いた地の時代(金銭・物質・権威等重視)から風の時代(知性・精神・個人等重視)に移行しようとしています。風の時代においては、ワクワクや直感、シンクロニシティとハートで感じることが重要です。この本は32年前に発売されていますが、これからの風の時代を生きる私たちにとって、とても大切なことが書かれている本だと感じました。
この主人公の少年を見ていると子供の頃に感じていたワクワクする気持ちや、そのワクワク従って行動していたことを思い出しました。今年を振り返ってみると仕事を通して様々な静かなるワクワクがありました。そして、その静かなるワクワクを通して色々な素敵な方々と出会い多くの気付きや学びを体験し、成長できたことを深く感謝しています。
皆様方どうぞ楽しいクリスマス、年末をお過ごしください。

 

最近完成した住宅

先日完成した住宅は車二台分のガレージ、子供部屋、主寝室、和室の他に奥様のフラワー教室が出来る趣味室が設けてあります。特徴的なのはリビング、ダイニングの間に設けた坪庭です。この坪庭より東の光を取り込んでいます。また、深い庇がついておりこれによって入ってくる光の量を調整しています。そして庇がリビング、ダイニングの天井と繋がっている為、室内感がさらに強まり空間の一体感が生まれます。また、坪庭とは別に西側には中庭があり、BBQなどアクティブに使えるようになっています。
リビング、ダイニングの空間全体は、開口部やその他のディテール、床や壁、天井などの様々な素材を検討し情報量を減らしています。ただ減らすのではなく適切な情報量による空間表現が大事だと思っています。
この住宅は坪庭からの朧げな朝の光、トップライトから入る時を告げる光、庭からの暖かな光など様々な光と共に日常を過ごすことが出来ます。そして光と同時に存在する陰影の美しさも感じ取ることができます。

 

夜の川沿いのカフェ

以前ブログでご紹介した川沿いのカフェが、OPENに向けて少しずつ家具やインテリア、書籍などが飾られ始めました。オーナー様のこだわりや好きなモノが置かれていくことで、個性的で静かな落ち着きのある印象を受け、1960年代に建築された建物に宿るモダニズムに類似した雰囲気を感じました。写真を趣味としているオーナー様が、これまでに撮影された作品がギャラリースペースに飾られると、より一段と雰囲気が増していくと思います。
建築が人や家具、インテリアを輝かせ訪れる人たちの心を動かし、五感で感じる力を高めその先の領域にある感性へと繋ぐきっかけになるだろうと期待しています。なお、この建物はYouTube「川沿いのカフェ」にて公開しています。

※下記の写真はオーナー様よりご提供して頂きました。