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おおきな木

建築雑誌に掲載されていた絵本が気になり購入しました。題名は「おおきな木」作者はシェル・シルヴァスタイン、翻訳は村上春樹、38か国900万部の世界的ベストセラーになった絵本です。
少年は大きな木によじ登り、葉っぱを集め毎日遊んでいました。大きな木は幸せでした。やがて少年は青年になり、大きな木と遊ばなくなり様々な要求をするようになります。お金をほしがると大きな木は、リンゴを与え町で売ってそのお金で幸せにおなりなさいと言いました。そして今度は家がほしいと言うので、大きな木はすべての枝を与えます。それでも絵本の中では「木は幸せになりました」とつづられています。そして最後には、大木である自らの幹を与えるのです。やがて時が流れ老人となった少年は、久しぶりに切株だけとなった大きな木に会いにきます。大きな木は「わたしにはもう何もないの。あなたにあげられるものが・・・」と告げると少年は「僕にはもう、特に何も必要としない。腰を下ろして休める、静かな場所があればそれでいいんだ。」と言います。切株となった大きな木は「それなら、古い切り株なら腰を下ろして休むにはピッタリよ。いらっしゃい、坊や、私にお坐りなさい。座って、ゆっくりとおやすみなさい。」と言います。そして「木は幸せでした」と物語は締めくくられています。
大きな木は、リンゴや枝という物質に愛を変換し惜しみなく与えています。大きな木にとって与えるものは何でもよかったのです。私たちが受け入れてきた、交渉と取引をベースとした愛ではなく、大きな木が与えていたのは本物の愛(アガペー)です。この絵本のテーマは、アガペーがもたらす幸せの本質を教えてくれているのだと私は感じました。

この絵本の訳者である村上春樹さんはあとがきにこのように書いています。
多くの人は、この木を母性の象徴としてとることでしょう。しかし、それはもちろん一つの解釈に過ぎません。(中略)・・・ あなたがこの物語の中に何を感じるかは、もちろんあなたの自由です。それをあえて言葉にする必要もありません。その為に物語というものがあるのです。物語は人の心を映す自然の鏡のようなものなのです。

 

緑とアプローチ

自然豊かではない街中の敷地においてでも、自然との調和を大切にし玄関アプローチ、ダイニング、中庭を一体として捉え設計しました。朝、ダイニングから見える緑の景色に活力をもらい、そして玄関を開けて出掛ける時に感じる緑の生命力が、気分を高揚させ、前向きな気持ちにしてくます。そして帰宅時には、照明に照らされる緑の陰影の美しさが出迎えてくれ、心に安らぎと癒しをもたらしてくれます。玄関アプローチを通るうちに心が外向きから内向きに切り替わり、それはとても大切な時間です。そして、緑の美しい玄関アプローチは、街と住宅とを繋ぐ間でもあり、通りがかる人にも楽しみや癒しを与えます。緑とは、人間にとって欠かすことのできない存在であり、私は緑のもつ再生エネルギーを最大限に住宅や建築の中に取り入れることで、心がより豊かになっていくと考えています。

 

陰、影、光

陰影とは、陰(光の当たらない所)と影(光がものに遮られてできる暗い部分)があり英語では、陰をshade(シェード)、影をshadow(シャドウ)として分けています。私は、情緒的な雰囲気を与える陰に落ち着きや癒しを感じます。特に天井と壁の接点や、壁と床の接点、深い軒先の奥にある暗がりなどです。陰(shade)は、影(shadow)のようなダイナミックさはありませんが、繊細で奥ゆかしく確かにそこに存在するのだと分かります。陰(shade)は影(shadow)とは違い、意図的につくり出すことは容易ではないと考えます。反射光や間接光のような粒子的で、幻想的な光のふるまいをコントロールするのが難しいからです。陰(shade)に注目して、そのふるまい方を追求していくことで、光の扱い方に対する理解がより深まります。つまり光を設計することとは、陰と影を意識して設計することであり、陰陽論と同じように対極にあるものを同時に存在させ、そのバランスを整えることが、居心地の良い空間になるのではないかと思います。

 

居心地

以前、暖かな光と猫という題材でブログを書きましたが、他の動物達でも同じようなことが言えます。この写真は、約2年前に竣工した住宅で撮影されたものです。動物は、自分にとって居心地の良いと思える空間を、直感的に瞬時に判断し生きていると思います。この写真は、それが素直に表れたものです。冬は、薪ストーブの近くやトップライトの光の下の暖かさを感じ、夏はおそらく風の通る涼しい場所を求め移動していることでしょう。とても微笑ましい写真で和みます。動物が、居心地の良さを求めるように、人も居心地の良さを求めています。人がなぜ居心地の良さを求めるかというと、日々のストレスからの開放、精神の開放、そして癒しによって心や体の調和が、もたらされることを潜在的に知っているからです。私は、それを具現化する建築を設計したいと思っています。その為には、人の潜在意識の表れである無意識を観察し、それを建築の中に手法としてちりばめることだと考えています。そうすることで心や体の不調和を起こした時にでも、再び調和を取り戻すことが出来ると思います。

 

上からの光

私はトップライトから入る光を好んで用います。その理由は、時間の移ろいを感じさせてくれること、そして最大の魅力は、上からの光によって、人の心がどんな状態であっても活力を与えてくれるからです。トップライトは、光の量や見え方を考えて屋根形状や配置、大きさ、角度を含め検討していきます。そして光をさらに際立たせるためには、壁の素材が重要です。住宅において様々な小さな気付きをたくさん作ることが、住まう人の感性を育み、幸せと感じる時間を創り出します。このようなことは、あらゆる建物の設計に活かせるのではないかと考えています。

 

自然との一体感

自然との一体感を得ようと思うと様々な要素がありますが、その中でも緑との距離感がとても重要になります。緑をなるべく窓際に配置することで、窓を開ければすぐ触れられるようになり、緑の些細な変化までを感じさせてくれます。また、方位を考慮し窓際の近くに緑を配置することで、緑の影が室内の奥深くまで入り込み、その影を楽しむことや、その影のゆらぎによって、外に吹いているわずかな風を感じます。このように、緑との距離が近いほど小さな気づきを感じやすくなり、自然との一体感を得られます。また、緑の存在を際立たせる工夫も大切だと思っています。リビング・ダイニングの開口部においては、木製サッシなどの有機的なものを感じるものを使うことで、その存在感を外部と馴染ませています。また素材選定、空間構成、開口部の設えを考え室内に陰影をつくることで、外の明るさとの対比が生まれ緑が、より生き生きと見えてきます。このように私は居心地のよさとは、自然との一体感からくるものだと考えています。今後も建築に求められる居心地の良さを感じられることを、より多くみつけていきたいと思っています。

 

暖かな光と猫

私たちの身近にある光は、居心地の良さを左右する大切な要素です。住宅において光の取り入れ方には、反射光や直射光などあります。壁に反射させる反射光や北側の光は、光で満たしていても温度を感じにくく、居心地が良くなるとは限りません。東側から入る清々しい朝の光や南側から入る正午の暖かな光、そのような直射光は、居心地の良さを創り出してくれます。ペットを観察しているとそれらが分かります。いつどこの場所が居心地が良いのか、自我を持たない動物は、純粋に居心地の良さを求め移動しますので、彼らが教えくれます。

 

量子力学・意志 

量子力学とは、ミクロの世界の物理現象を扱い不確定要素が成立する学問です。この現象を表す有名な実験として、粒子と波動の二重性を示す二重スリット実験があります。この本では、「電子にも意志があるとしたらどうしますか?」という投げかけから始まっています。私たちが見えているマクロの世界は、見えていないミクロの世界で成り立っています。そうなるとマクロの世界にある意志というものが、どの時点で生まれてくるのかという疑問が生じます。ここでは、量子力学が唱える不確定原理が、最初から意志を持て現象として表れていると書かれています。最後のまとめとして、次のようなことが書かれていました。「新しい文化は量子力学論的文化であり、対話原理を基調とする対話する文化である。電子が対話し、タンパク質が対話し、細胞が対話し、木々が対話し、人々が対話し、宇宙が対話する文化である」この本を最後まで読み終えると、森羅万象、すべての物において分子レベルで意志が存在しているようです。とても興味深く感動を覚える内容でした。

 

量子力学の世界 

量子力学に興味があり関連書を何冊か読みました。量子力学の始まりは19世紀末で、ここ近年量子論として確立されてきました。アインシュタインが唱えた相対性理論のような古典物理学のマクロの世界から量子力学の扱うミクロの世界が注目され始めています。量子の世界では、量子テレポーテーションや量子もつれなどの摩訶不思議な現象が起こっています。私たちが見ているマクロの世界では、起こるはずのない現象です。量子のことを知れば知るほど目に見えていることが、すべてではないことがわかります。人間の意識も顕在意識と潜在意識がありその割合は1対9です。私たちは、1割の顕在意識で生きているように見えますが実は、目に見えていない9割の潜在意識の方で生きています。今は、マクロの古典物理学とミクロの量子力学が分かれていますが、いずれこの二つの理論が統一される新たなる理論がでてくるはずです。その時には、心、意識の正体がその統一論を持って明かされるのではないかと思います。そして、現在は切り離されている精神論、哲学と物理学が一緒になり新たなる幸福論がでてくるのではないかと思います。

 

朝の光とダイニング

私は朝どのような景色を見て何を感じるかは、とても重要だと考えています。なぜならそれによって、その日一日の気分が変ってくることを体験しているからです。例えば、旅先での楽しみの一つである朝食は、朝の清々しい光を呼び込むダイニングで過ごすことで、前向きな気分で始まります。このことを考えると、毎朝食事をとるダイニングの役割はとても大きいと思います。住宅の設計では、一般的に南側に開口を設けリビングやダイニングを配置することが多いですが、この敷地ではダイニングを東側に配置し、緑やバードバスのあるテラスを設けました。朝の光と共に見る景色や緑から感じる生命力によって、気分が高揚し、きっと今日が活力あふれる一日となると思います。このような毎日の積み重ねこそが、明日や未来への人生の幸福度、満足度に繋がっていくのだと信じています。